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婚約破棄の翌朝

Author: suzuki
last update Last Updated: 2025-05-16 09:16:38

「おはよう、ティー。……いい朝だね」

 布団の中で目覚めると、見知った茶髪。半開きの金色の目に、目を大きく見開いた自分が映って、テイワズは悲鳴をあげた。

「る、ルフお兄様ー!?」

 ふわあ、とルフトクスは大きなあくびをして、テイワズを見て満足げに目を細めた。

 叫び声がこだましてすぐに、部屋の扉が勢いよく開く。

「どうしました!?」

「どうしましたか!?」

 同時に飛び込んできた色は二色。黒髪のロタと、紫髪のフォルティだった。

「おはよう、ロタ兄さん、フォル……ふわあ、あ……」

「なんでお前が同じベッドで寝てんだ!」

「ロタ兄さん、朝から怒りすぎー。いつもの口調が抜けてるよー」

 ルフは面白がるように言ってそれから、布団を被り直した。……赤くなって固まったままのテイワズも入っている同じ布団を。

「ルフトクス!」

「なんで布団の中戻ってるんですか! 出てきてください!」

 ロタとフォルティが布団をひっくり返すと、丸くなったルフトクスはまだ眠りを惜しそうに目を細めた。

 固まっていた真隣のテイワズが、おずおずと口を開く。

「あの、ルフお兄様……」

「なあにぃ? おれの可愛いティー」

 テイワズの囁きに、甘く、とろけそうな──瞳と同じ蜂蜜のような響きで答えた。

 深い蜂蜜の中に捉えられて、テイワズはまた頬を赤くする。なんで。

 なんで、こんなに、甘く。

 今までこんなこと、なかったのに。

 今までよりはるかに甘ったるい、知らなかった声と、溢れたばかりの朝日に煌めく瞳。

 動揺した。

 目覚めて世界が変わってしまったのを知った。

 婚約破棄と、突然の家族の真実。

「……ドキドキした?」

 微笑まれて、胸が高鳴る。

 なんで。この人に。兄なのに。

 見つめ合って蜂蜜は琥珀になりうると知る。

 テイワズが胸元を抑えたところで、ロタがたまらず舌打ちをした。

「いい加減に出ろ! ルフトクス!」

 ロタがルフトクスの首元を掴んで、乱暴にベッドから引き摺り落とした。

「いててー……乱暴だなあ」

「あなたが悪いんですよ! ルフ兄様!」

 真面目で規則正しいフォルティは、寝巻きのテイワズやルフトクスと反した外用の服を既に着ていた。

 規則正しい生活を心がけているロタも、既に寝巻きではないが、髪型のセットがまだ甘い。髪を抑えて乱暴に整えて、ルフトクスを責めるようにいった。

「なんでこんなふざけたことをしたのか、教えてもらいましょうかねえ……」

「わからないの?」

 返事は一言。聞いた二人の兄は固まった。

 わからない。

 ルフトクスの言葉の意味は、妹のテイワズにはわからない。

「わからないわけ、ないよねぇ?」

 けれど、その言葉を向けられる二人の兄は、まるでその言葉に思い当たることがあるような顔をした。

「ティーと結婚できるチャンスができたんだよ?」

(昨日の話は、本気だったの?)

 テイワズは口を開けない。

 ルフトクスは淡々と告げる。

「……男として意識してもらうために、モーションかけるのは…………当たり前でしょ?」

(なんで)

 テイワズは思う。黙る二人の兄に。

(馬鹿なことを、と怒らないの?)

 なんで笑い飛ばしもしないのかと、黙る二人の兄に対して思った。

「ばっかじゃねぇのか?」

 朝食の場に、一番最後に現れたヘルフィはそう言って片眉を釣り上げた。

「ですよね! 兄様!」

 フォルティが嬉しそうに顔を上げる。

「いーや、ルフだけじゃなくてテメェら全員だ、ぜーいん」

 そう言って人一倍バターを塗り込んだパンを口に入れ朝食を食べ始めた。

 他の兄たちは憮然としながらも黙って、テイワズも食事の続きをした。

 結局、昨夜は父親が逃げてしまったことにより血縁にまつわる話を聞くことができなかった。

 昨日逃げ出した父親は、ヘルフィによるとそのまま馬車に乗り視察に出てしまい数日帰ってこないそうだ。

 テイワズ自身もどっと疲れており、五人で話し合う気力もなく早々に寝室に下がった。

(眠れないかと思ったけれど、やっぱり疲れてたのね、よく眠れた)

 けれど目覚めは鮮烈だった。

 ルフトクスのせいで朝から大騒動になった。

 身支度を整え三人の兄と食卓につき、一番最後に眠そうな顔をしながら現れたヘルフィが馬鹿じゃねえかと言ったのだ。

「馬鹿とは心外ですね。責められるべきはルフ兄様でしょう!」

「先手を取っただけだよ。ねー、ティー。どう、ドキドキした?」

 フォルティの言葉を浴びても、ルフトクスは余裕とばかりの笑みでテイワズに笑いかける。

(いやいや、そりゃあドキドキしたけれど!)

 それは。

 恋とかそういうのじゃなくて。

「目覚めてすぐ布団の中に人がいたら誰だってドキドキします!」

 そうだ。恋とかではなく、単純な驚き。

 幼い頃は共に寝ることもあった兄たちとは、いつからかそんなこともなくなっていた。

 寝物語の続きを共に語り合ったこともあったのに。

 それもしょうがないことだと思っていたのに。

(|家族《きょうだい》でも男と女だからだと思っていたのに)

「ちぇー。なんだよー、おれだからドキドキしたって言ってほしいのにさぁ」

 残念。そう言ったルフトクスは、言葉とは裏腹の顔でコーヒーを啜った。

「ま、とりあえずちょっとは意識してもらえた? おれは本気だよー」

「ルフお兄様!」

 兄弟の中で一番真面目なフォルティが肩を上げる。

「フォルだって一緒にティーと寝たいんでしょ? ここはおれに怒るんじゃなくてティーを誘う場面じゃない?」

「一緒に寝るなんてそんなはしたないですよ!」

 煽るルフトクスと、それに乗ってしっかり怒るフォルティ。忙しなく揺れる茶色と紫色の髪にテイワズは何も言えない。

「けど、確かにルフ兄様に抜け駆けされた分……誘いたくはありますね」

 フォルティが考えるように一度腕を組んで、それから。

「ティー。今日は僕と……」

「フォルティ! 抜け駆けはやめてください!」

 フォルティの言葉をロタが遮った。

(ぬ、抜け駆けって?)

 ロタが言葉を続けようと息を吸い込んだそのとき、

「うっせー! テメェらさあ」

 誰より低く、低血圧の朝の気だるさそのままに、ヘルフィが低く、それでも大きく言い放った。

「一緒に寝たいだの抜け駆けだの、全員馬鹿かっつってんだよ。よくわかんねぇ親父の言葉一つでいきなりさぁ」

 おい、と言われただけなのに、テイワズは自分のことを呼んだのだとわかる。

 往々にして口の悪い兄。それでも優しい、オスカリウス家の長男。だから、乱暴な口調も怖くない。

「テメェも嫌だったら嫌ってちゃんと言え。俺様たちがテメェの言うこと聞かねぇわけねぇだろ」

「ごめんなさ……」

 そうよね、と思い口を開いた。

(私がちゃんと言わなきゃね)

 だからちゃんと、戸惑ってることを言おうとした。息を吸い込んだ。

「じゃあおれがまずちゃんと思ってることを言うね」

 それを、ルフトクスが遮った。

 兄弟一の甘い顔で、甘い声で。真剣に。

「ずっと妹だと思ってたけど、妹じゃない可能性があるなら、おれはティーが大好きだから結婚したいよ」

 なんで。なんで他の兄弟は黙って聞いてるの?

 まっすぐな金色の視線に、テイワズは目を背けられない。

「実の兄じゃない確率は五分の四でしょ? そんなの、賭けるに決まってる。おれはきみに選ばれたい。だから」

「ルフトクス、朝からずるいですよ」

 割って入った声は、ロタの声。

 眼鏡をくいと押し上げて、青い瞳でロタを制した。

「自分だって、同じ気持ちです。ティー」

「え、ロタお兄様……?」

 さすがに戸惑いを隠せなかった。

 青い瞳が燃える様子に、テイワズは思い出す。

 一番理知的に見えて、けれど理性的じゃない──この二番目の兄のことを。

「ティーが妹じゃなければと思ったことは、自分だってあります。それが本当になるとは思いませんでした」

 ロタが息を吸い込む。

··がもしも本当の兄じゃなかったら──」

「ちょ、ちょっとロタ兄様も止まってください!」

 ロタの言葉を、フォルティが慌てて止めた。

「ちぇー、いいところで止めないでよー」

「兄様方、抜け駆けが早すぎます! 僕だってティーに言いたいことがあるんですからね!」

 え。先ほどからの目まぐるしい言葉と、紅茶よりも甘い言葉の連続に、テイワズはもう眩暈がしそうだった。

(ど、どうすればいいの!?)

 混乱するテイワズと兄たちの間に、降った声は長男の声だった。

「だからテメェらさぁ」

 ヘルフィは乱暴に口を拭う。

「とりあえず朝飯食っちまえよ! 俺様はもう食べ終わるぞ!」

 そう言われて、三人の兄とテイワズは、慌てて食事を食べ終えた。

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